このフェスティバルは“ここにしかないめぐり合い”を合言葉に、毎回特別プログラムが組まれるが、今年もすばらしいプログラムが実現した。先発のニューヨーク在住で人気絶頂のピアニスト、山中千尋が真っ赤なドレスで登場。1曲目はアルバム「アウトサイド・バイ・ザ・スイング」の表題曲を披露。トリオの3人が自由に激しくフリーな感じでスタート。やがて高速テンポに変化。アグレッシブでストレート・アヘッドなジャズ演奏は、本場ニューヨークの最先端の音である。驚いたのがサイドメン。全員がニューヨークから来た女性である。ジェニファー・レイサムはまるで男性のように力強いベースを弾く。アリソン・ミラーは、若き日のジャック・デジョネットを彷彿とさせるようなドラムを叩く。 |
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2曲目は、クラシックの<愛の悲しみ>。20世紀最高のバイオリニストと称されたフリッツ・クライスラー(1875-1962)の曲。次いで山中の代表曲<リビング・ウィズアウト・フライデー>。カモメのジャケットのアルバムの表題曲だ。やがて山中のピアノの音が鮮やかに浮かび上がってくる。一体小柄な彼女のどこから、このパワーが生まれてくるのだろうか?<縁は異なもの>ではMoog Pianobarを装着して生ピアノの音の上に他の音を重ねて見せた。斬新な試みである。 |
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2部は、三木俊雄(ts)率いるフロントページ・オーケストラが登場。1曲目の<タイム・フライズ>と3曲目の<隅田川>は、アルバム「ハーモニー・オブ・ザ・ソウル」の収録曲。2曲目は池田篤(as)の<パリから来た男>。珍しい10人編成のオーケストラだが、一人一人が実力派のソロイストなので、彼らが織り成す音のカーテンは見事で、ホールを包み込むように魅了した。各人のソロ、三木のアレンジも素晴らしい。そこに美人シンガー、megが登場。megは、昨年11月。「グレース」でデビューしたばかりである。グランミラー楽団で有名な<ムーンライト・セレナーデ>などを丁寧に、チャーミングに3曲歌った。最後は、このフェスティバルのために三木俊雄が特別に書き下ろした<ステッピング・ストーン>。7拍子のスリリングな曲だ。奥村晶(Tp)と三木(Ts)が素敵なソロを聴かせた。
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3部は《ヤマハ・ジャズ・フェスティバル》に11年ぶりに凱旋を果たした渡辺貞夫(As,Fl)である。渡辺は、1933年生まれ。今年で74歳(ウェイン・ショーターと同い年)だが、とっても元気だ。まずは<ワン・フォー・ユー>。爽やかな風のような曲で、いきなり渡辺の温かい音色に痺れてしまう。次いで<シー・ホワット・ハプンズ>。パーカッションのンジャゼ・ニャンのリズムが心地好い。まるで大地の鼓動のようだ。次いで<アララケ>。「神様はなんでもお見通しだ」という意味だよと渡辺は優しく説明する。<ディープ・イン・ア・ドリーム><コール・ミー>ときれいなアルトを聞かせる絶品のバラードが続き、ホールは大きな拍手に包み込まれた。 |
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