2008年6月15日(日)、「第17回ヤマハ・ジャズ・フェスティバル・イン浜松」が催された。「ここにしかないめぐり合い」を合言葉に始まった「ヤマハ・ジャズ・フェスティバル」は、早いもので、今年で17回目を迎えた。毎回ラインナップが素晴らしく、ここ数年も、ヘレン・メリル(2003年)~猪俣猛&前田憲男(2004年)上原ひろみ(2005年)~矢野沙織、フィル・ウッズ(2006年)~山中千尋、渡辺貞夫(2007年)と続いてきた。
「今年は一体誰が出演するのだろう」と、出演者が決まる前から楽しみにしているファンも多い。今年もそんな熱心なファンの期待に応える充実のプログラムが揃った。 |
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先発は、名古屋を拠点に活躍中のピアニスト、後藤浩二のトリオである。そのメンバーは、大野俊三のバンドで共演して後藤がすっかり惚れ込んだベースの杉本智和、ドラムの石川智という最良の人選だ。後藤トリオは、昨年4月に発売したアルバム『ホープ』から<48thストリート><ホープ><リバー・オブ・ティアーズ>と後藤のオリジナル3曲を演奏した。高速テンポの<48thストリート>は、アルバムで共演したハービー・メイソンに捧げた曲で、「ニューヨークの空気」が漂ってくるような快調なプレイである。このトリオのサウンドは、現代のジャズ・シーンのピアノ・トリオを象徴しているようだ。<ホープ>は、とても美しいバラード。ハービー・メイソンは、「後藤のバラードは、聴く者の心を掴んで離さない。心が望むままを見事に表現するテクニックがある」と語っているが、その通り、魂と心のこもった音がする。次いで新進気鋭のトランペッター、市原ひかりが後藤トリオに加わり、<星に願いを><恋をした時><ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラブ>の3曲を披露した。市原は、2006年に吹き込んだ『サラ・スマイル』以降、急速な進化を遂げている。
<星に願いを>は、市原得意の曲だが、アレンジ(市原の手による)、演奏、なんとも美しい音色とすべてが完璧な演奏である。彼女の登場は、まるでステージに花が咲いたようで明るい雰囲気になった。<恋をした時>のバラードでの表現力は見事で、高速テンポの<ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラブ>でのトリオとの掛け合いも楽しかった。 |
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続いてケイコ・リーが8年ぶりに「ヤマハ・ジャズ・フェスティバル」に帰ってきた。彼女が登場しただけで、ホールには大きな歓声が沸く。1曲目は、カーペンターズの1971年のヒット曲<スーパースター>(レオン・ラッセル作)。それをケイコは弾き語りで歌う。
バックは、五十嵐一生(tp)のみ。ケイコの歌声が響き渡り、切ない五十嵐のトランペットの音色に、ホールは一転して大人のムード、夜の気配だ。2曲目の<ザ・マン・アイ・ラブ>から納谷嘉彦(p)、井上陽介(b)、渡嘉敷祐一(ds)が加わった。今回のケイコ・リーの楽器セッティングは、「ジャズそのもの」なのが嬉しい。ケイコが歌いだすと、ブラック・フィーリングが漂う。いいムードである。この曲の五十嵐のトランペット・ソロがよかった。奇しくもこの日、各SETに市原ひかり、五十嵐一生、ランディ・ブレッカーの3人のトランペッターが出演し、各々の個性、音の違いが楽しめた。
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次にケイコは、<君住む街で>を井上のウォーキング・ベースだけをバックに歌い始めた。<ナイト・アンド・ディ>は、ゆったりしたテンポで歌った。曲をケイコ流に崩してあり、従来のイメージとはずいぶんと違う。ケイコ・リーの素晴らしさは、どんな曲もしっかりと歌い込んでいて、自分自身の歌になっていることだ。またケイコは、メンバー紹介を除き、MCをまったくしない。それがまたいいのだ。聴いていて、リスナーもどんどん集中できる。<オン・ア・クリア・ディ>は、ミディアム・アップ・テンポで歌う。最後に“ドクターJAZZ”こと内田修先生と元スイングジャーナル編集長の児山紀芳氏に捧げて、<イマジン>を弾き語りで歌った。そのあまりの素晴らしさに、思わず涙がこぼれてくる。ホール全体に、感動が満ちていた。 |
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第3部に村田陽一ソリッド・ブラスが登場し、ブレッカー・ブラザーズのテーマ曲<サム・スカンク・ファンク>(作曲はランディ・ブレッカー)でいきなり火の出るような演奏を行い、聴衆の度肝を抜いた。ソリッド・ブラスは、合計8名のユニークなバンドだ。ブラス・セクションに、ドラムだけ。ピアノもギターもベースもいない。つまり一見ニューオリンズ・スタイルのブラス・バンド、しかし演奏はアグレッシブな演奏。見ていてさぞかし疲れるだろうと思える休みなし高速演奏を行う。世界的にも稀有なバンドと思う。今回は、村上“ポンタ”秀一の欠席が残念だったが、代役の渡嘉敷祐一が頑張って貢献した。さて村田は、地元静岡の出身で、12歳から市内オーケストラでトロンボーンを始めた。「ヤマハ・ジャズ・フェスティバル」には、4度目の出演である。1度目は、「プロミシング・ヤング・ジャズ・メン・オブ・ジャパン」(1992年)、2度目は丸山繁雄と酔狂座オーケストラ(1993年)、3度目は秋吉敏子オーケストラ(1996年)で出演している。今回は、遂に自分のバンドで出演した。しかも“トリビュート・トゥ・ブレッカー・ブラザーズ”の看板を掲げたので、村田の強い決意も感じられ、大きな期待を抱いたファンも多いだろう。
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ランディとマイケルのブレッカー兄弟は、村田が敬愛してやまない音楽家であり、昨年亡くなってしまったマイケルは、村田陽一ソリッド・ブラスの2作目『ホワッツ・バップ?』に客演してくれた恩師である。今回は兄のランディが特別参加することになり、村田の意気込みは並々ならぬものがあった。それだけに村田は、ブレッカー兄弟の音楽に新たな光を当てると同時に、彼らの音楽がいかに親近感に満ちた愛すべき楽曲を多数残しているということを再認識させた。
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ソリッド・ブラスの2曲目<ドナ・リー>~<チキン>で、ランディ・ブレッカーが登場した。ランディが入ると、ブラス・セクションの核に太い芯が入ったような気がした。ランディ・ブレッカーは、全編でエフェクトを効かしたエレクトリック・トランペットを吹いた。『東京JAZZ』でもそうだったが、最近のランディは、エレクトリック・トランペットが大好きだ。しかし、ランディの実力を知るジャズ・ファンとしては彼の生音が聴きたい。ジャコ・パストリアスの<スリー・ビューズ・オブ・ア・シークレット>では、ランディはハーモニカのような音を出してみせた。村田のファンキーなオリジナル<バッド・アティテュード>で、ソリッド・ブラスの演奏は終了(合計5曲演奏した)。
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ここでメンバーを10名増やして、村田陽一ビッグ・バンド(ランディを含め、合計19人編成)となり、7曲を演奏した。<ストラップ・ハンギン>では、村田が素晴らしいトロンボーン・ソロを聴かせた。村田は、演奏以外にも作曲、編曲に優れ、今までに参加したレコーディング数は、10000曲以上というから凄まじい。今回は、合計8曲のアレンジを村田が手掛けている。<フリーフォール>では、近藤和彦がソプラノ・サックスで抜群のソロを取った。ランディも思わず、「こいつ、やるなあ」と感心した顔で見つめていた。ランディが魅せたのは、ランディのオリジナル・バラード<ラヴィテイト>。この曲は、このコンサートのためにランディが用意した曲だ。元々ヴィンス・メンドーサのアレンジが素晴らしかったが、村田は新たにアレンジした。非常に難しいハーモニーの曲だが、そこにうまくフレーズをはめ込んでいる。ランディは、この曲だけ、エフェクトを掛けず、オープンの生音でソロを取った。他の奏者とは、ひと味もふた味も違うリリカルな最高のバラード・ソロだった。惜しむらくは、この曲だけがオープン(生音)だったこと。もっとオープンで吹いて欲しかった。続いてウェイン・ショーターの珠玉の名曲<エレガント・ピープル>で、ホールは熱くなる。そしてブレッカー・ブラザーズのテーマ曲<サム・スカンク・ファンク>を再び演奏。ランディが加わり、パワーアップしたビッグ・バンドのサウンドは、まるで熱湯がたぎるようだ。ランディの豪快なソロに痺れる。感動の余韻も覚めやらぬまま、ステージに、ケイコ・リー、市原ひかり、後藤浩二の3人が加わり、<スイングしなけりゃ意味ないね>を演奏した。アクトシティ浜松 大ホールは、歓喜に包まれ、感動のフィナーレを終えた。(高木信哉) |
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>> PART.1 |
ジャズ界の"New Hope" 後藤浩二トリオ Special Guest: 市原ひかり |
[出演] |
後藤浩二(p) |
杉本智和(b) |
石川智(dr) |
市原ひかり(tp) |
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>> PART.2 |
不動の人気No.1 いま再び、ディープ・ヴォイスに酔う ケイコ・リー |
[出演] |
keiko Lee(vo) |
納谷嘉彦(p) |
渡嘉敷祐一(dr) |
井上陽介(b) |
五十嵐一生(tp) |
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>> PART.3 |
Tribute To「ブレッカー・ブラザーズ」
ランディ・ブレッカー with 村田陽一 Solid Brass & Big Band |
[出演] |
ランディ・ブレッカー(tp,composer) |
村田陽一(tb,composer,arranger) |
[村田陽一SOLID BRASS] |
村田陽一(tb,composer,arranger)、西村浩二(tp)、菅坡雅彦(tp)、佐藤潔(tuba)、小池修(as)、竹野昌邦(ts)、山本拓夫(bs)、渡嘉敷祐一(dr) |
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[村田陽一BigBand] |
村田陽一(tb,composer,arranger) |
西村浩二(tp)、菅坡雅彦(tp)、中野勇介(tp)、田中充(tp)、五十嵐誠(tb)、川原聖仁(tb)、山口隼士(btb)、近藤和彦(as)、本間将人(as)、小池修(ts)、竹野昌邦(ts)、山本拓夫(bs)、小野塚晃(kb)、梶原順(gt)、納浩一(b)、渡嘉敷祐一(dr)、佐藤潔(tuba)、大儀見元(perc) |
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