ギターの小気味良いカッティングから始まった1曲目は小沼ようすけの2001年の1stアルバム「nu jazz」からのナンバーで「Coffee Please」。ファンキーなテーマの後、小沼ようすけのギター、金子雄太のオルガン、太田剣のアルトの順にソロが繰り広げられた。小沼は金子やドラムの大槻“KALTA”英宣とまるで駆け引きを楽しんでいるかのように緩急自在なプレイを聴かせ、続く金子はこれ以上ないという切れ味でオルガンサウンドを堪能させてくれた。太田はトリッキーなソロの導入で聴くものを惹きつけた後、バックのメンバーと互いに触発しながらバンドを最大限の盛り上がりに導いた。 |
2曲目は太田がソプラノに持ち替えて7拍子のナンバー「D'lo Pann」、3曲目に太田のオリジナルで16ビートやスイングビートが織り交じる非常にハードでスリリングな「Swingroove」を演奏。メンバーとの出会いなどが小沼から紹介された後、今度はギター、アルトのデュオによるEric Claptonの名曲「Change The World」。会場は一転して静寂に包まれ、リラックスしながらも緊張感を維持した2人のアコースティックサウンドは大変心地よく感動的であった。続いて小沼の最新アルバム「Beautiful Day」から「Green」。これは小沼が海辺に移り住み、自然の大切さや音楽との共通点を見出す中で生まれたアルバムという紹介があった。ラストは観客の手拍子に乗せて小沼の2ndアルバムから「Driving」を演奏、小沼と太田のチェイスに続き大槻のパワフルで圧巻なドラムソロが繰り広げられエンディング。会場の興奮が覚めやらぬうちにステージは幕を閉じた。 |
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PART.2 平賀マリカ |
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[出演] |
平賀マリカ(Vo)、秋田慎治(Pf)、山下弘治(B)、小山太郎(Dr)、浜崎航(Ts) |
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若手、中堅の実力派ミュージシャンをバックに揃えた平賀マリカのステージは、昨年リリースされ「第42回ジャズディスク大賞ボーカル賞」を受賞したアルバム「BATUCADA <Jazz'n Bossa>」からタイトル曲の「Batucada」で始まった。平賀の声は優しく、時に力強く聴くものを魅了する。アルバムではランディブレッカーのトランペットでイントロとソロが演奏されているが、ここではテナーの浜崎航がそのパートをクールかつモダンに決めた。続く「One Note Samba」も同アルバムからの選曲で軽快なボサノバのリズムに乗せて平賀のリズミカルなテーマの後、ピアノの秋田慎治の歌心溢れるソロ、浜崎のフルートソロと続いた。 |
平賀から曲の紹介などがされた後、2006年リリースのアルバム「Faith」から「My Favorite Things」、2007年リリースのアルバム「Close to Bachrach」から「Close To You」、「Raindrops Keep Fallin' On My Head (雨にぬれても)」、前述のアルバム「BATUCADA<Jazz'n Bossa>」から「The Gift」などジャズファンでなくとも親しみやすいポピュラーな選曲が続いた。「My Favorite Things」はアルバムではエリックアレキサンダー(Ts)とハロルドメイバーン(Pf)トリオにより極上の演奏がされているが、今回のメンバーによる演奏もアグレッシブで絶品であった。続いて叙情的なナンバー「Bridges」をスローボッサのリズムに乗せ美しく歌い上げ、エンディングは軽快なサンバで「Tristeza」。観客から手拍子が沸き起こり、最後は会場全体の大合唱となった。 |
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Part.3 穐吉敏子 & ルー・タバキン With YJF All Star Big Band |
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[出演] |
穐吉敏子(Pf, Composer) |
ルー・タバキン(Ts, Fl) |
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YJF All Star Big Band |
近藤和彦(As) |
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澤田一範(As) |
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小池修(Ts, Fl) |
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宮本大路(Bs) |
エリック宮城(Tp) |
奥村晶(Tp) |
西村浩二(Tp) |
岡崎好朗(Tp) |
片岡雄三(Tb) |
池田雅明(Tb) |
鹿討奏(Tb) |
山城純子(Tb) |
井上陽介(B) |
大坂昌彦(Dr) |
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穐吉敏子とルータバキンのビックバンドが日本の精鋭ミュージシャンらと共に蘇った。穐吉のテーマ・ミュージックと呼ぶべき「Long Yellow Road」が始まると会場にいる多くの穐吉ビックバンドのファンはこれだ!と言わんばかりに頷きながら聴き入った。ルー独特のふくよかなサブトーンによるテーマに続きアルトの近藤和彦、トランペットの岡崎好朗のソロが炸裂。トランペットのエリック宮城を頂点とするホーンアンサンブルも素晴らしく、全盛期の穐吉ビックバンドを彷彿とさせるものだった。
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続いてルーが安部公房の小説「砂の女」のイメージで作曲し、穐吉がオーケストラアレンジを手掛けたという「Desert Lady Fantasy」。日本の横笛を思わせるルーのフルートとアフリカンリズムに乗せたトロンボーン片岡雄三のエモーショナルなソロがフィーチャーされた。さらに「Herlequin Tears」や、青森県森田村の四季を描いた96年のアルバム「Four Seasons」から「冬」にあたる「Repose」が演奏され、ルーがテナーで奏でる「Repose」の美しいメロディーにしばし陶酔した。その他にも「Warning」、「孤軍」などいわゆる穐吉スタンダードが惜しみなく演奏され、また穐吉のソロピアノによる「The Village」はエネルギッシュで圧倒された。
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終盤には中国の鄧小平氏の名をつけて作曲したアップテンポのバップ調ナンバー「After Mr.Teng」を演奏。テーマに続き宮本大路(Bs)、岡崎好朗(Tp)、澤田一範(As)、井上陽介(B)と各ソロイストの快演が続く。アルトの澤田がサビの部分でこの曲と同じコードチェンジをもつ「Strike Up The Band」のメロディーを吹くと、ルーが振り向いてニヤッとした。超難度のサックスソリの後は小池修とルーのテナーバトル。80年のアルバム「Farewell」ではテナーのジョングロスとルーのバトルが素晴らしいが、ここでも両者がっぷり四つに組んで最高のテナーバトルを聴かせた。ラストナンバーは穐吉が2001年の9・11テロ以降必ずコンサートの最後に演奏しているという「ヒロシマ そして終焉から」の最終楽章「Hope」を演奏、ルーが訴えかけるように吹くメロディーに穐吉の平和へのメッセージを強く感じた。
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フェスティバルのフィナーレとして、ビックバンドに小沼ようすけ(G)、 秋田慎治(Pf)、太田剣(As)を加え、平賀マリカのボーカルで「On A Clear Day」を演奏。小沼や太田のソロに続きルーもフェスティバルの終幕を惜しむかのように歌心たっぷりのソロを聴かせ、盛大な拍手に包まれながら2009年のヤマハジャズフェスティバルは幕を閉じた。 |